脱炭素の取り組み
一歩踏み出した自治体へのインタビュー 当別町
まちの課題である
林業再生と、脱炭素が
上手くリンクしました。
当別町経済部ゼロカーボン推進室
吉野 裕宜さん
東京都出身。西松建設株式会社、一般財団法人札幌市下水道資源公社で働き、平成27年に当別町役場に入職。
山林の間伐遅れをチャンスと捉え、
まちの課題解決のために脱炭素を。
当別町では早い時期から再生可能エネルギーの取り組みに着手しているとか。
そうですね。本町では平成16年から新エネルギーに関わるビジョンを打ち出し、平成27年には総合体育館にペレットボイラーなどを導入しました。
今から20年近く前。先見の明がありますね。
いえいえ、当時は正直なところ「イメージ重視」のスタートだったと思います。
ん?イメージ重視?
これにはまず経緯から説明する必要がありますね。当別町は面積の60%を森林が占め、かつては林業も盛んでした。けれど、輸入材が増えるにつれて縮小の一途をたどり、数多くあった林業事業者のほとんどは姿を消してしまったんです。平成27年のペレットボイラーの導入当時は、木質ペレットを製造する事業者が町内にはなく、外部から購入していました。「エネルギーの地産地消」という本来の姿からはほど遠いといえるでしょう。
なるほど、まちの課題がネックでもあったワケですね。
その通りです。ただ、その課題が脱炭素の取り組みを進める大きな後押しになりました。
どういうことですか?
現在、山林の大半は、林業の衰退から間伐など森の手入れが行き届かず、太陽の光を浴びられない木々の幹は、細く、製材として加工できるものは多くありません。ところが、発電用のチップとして使うには申し分ないため、高値で売ることが可能となります。当別町の森も同様に間伐遅れの山林が多いのですが、私たちはこの状況をチャンスと捉えました。木質チップの事業を構築することができれば、また、発電用のチップの一部をまちの熱利用に使うことができれば、まちの課題でもある森林組合や林業の再生を「裏テーマ」に、脱炭素の取り組みも進められるのではないかという光明が見えてきたのです。
町内の事業者と道総研の力により、
「木質バイオマス元年」に。
一挙両得の計画はスムーズに進みましたか?
森林組合や林業を再生しながら木質バイオマスを活用するというキーワードをもとに、町民や地場企業を巻き込んだ勉強会を続ける中で、計画自体は比較的スムーズに完成へと近づいていったと思います。
では、「エネルギーの地産地消」もメドが立ったと。
いいえ、そこが一番の課題でした(苦笑)。やはり、町内に木質チップを作れる会社がないことには計画を実行に移せません。ところが、町内の運送事業者が夏場の繁忙期と冬場の除雪の端境期に、木質チップ事業にトライしてみると手を挙げてくれました。
運送事業者が?なぜ手を挙げてくれたんですか?
聞くところによると、代表の先祖が林業に関わったことがあるのだとか。ご自身のルーツとして接点がある林業の灯火を絶やしたくないという思いが原動力になったそうです。もちろん、企業経営としても通年で仕事を獲得できるというメリットもあると思います。
運送事業者が木質チップを作るのはハードルが高くないですか?
ここにも重要な立役者が存在します。木質チップを製造するには木の含水率や焼却灰の有効活用といった専門知識が必要。私たちの知見だけでは製造することは到底不可能です。けれど、運用後のトラブルはできる限り少なくしたい…そこで道総研の戦略研究のテーマとして取り上げていただき、研究協定を結びました。
道総研はどのようなアドバイスを?
原料の賦存量調査から木材を砕く機械・ボイラーの選定、運用後の改善計画まで…つまり何から何までアドバイスをいただいたおかげで、木質バイオマスの実現性がグッと高まったんです。ちなみに、このタイミングが折しも令和元年であったため、私たちは「木質バイオマス元年」と呼んでいます(笑)。
当別町では、コストの軽減や省スペースなどの面から小型で安価な「乾燥チップ」を燃料とするボイラーを導入。
当別町の「気風」が、
仲間づくりの大きな味方に。
木質チップは運送事業者の敷地で作られているのですか?
いいえ、たくさんの原材料をストックする土地が必要なので、町内の廃校を木質チップの乾燥・製造の拠点として利用できるよう調整しました。他にも脱炭素に移行することで、ガソリンや灯油などの運送会社が将来的に仕事が減ってしまう不安を解消すべく、木質燃料の運搬に関わる連携についても理解を深めています。本町では令和元年に「当別町木質バイオマス地域アライアンス」と銘打ち、まちぐるみのプロジェクトとして各方面と関係性を構築しました。
まちの方々とはスムーズに話が進みましたか?
仲間づくりの面では当別町の気風に大いに助けられました。というのも、このまちは札幌に隣接していながら、観光資源にはさほど恵まれておらず、盛り上がりに欠けるというのが町民の共通認識。
手厳しいですね(苦笑)。
ただ、だからこそ、若い世代を中心に何かできることはないかとワークショップや勉強会を重ねていますし、シニア世代も勉強会を結成し、再生可能エネルギーについて意識が高い方も多いんですよね。こうした民間主導の話し合いが頻繁に行われているからこそ、役場がアドバイザーとして技術情報を提供するといった形でスムーズにジョイントしやすいんです。私たち役場職員は、こうした民間の集まりにアプローチすることで、仲間を増やしていく意識も大切だと思います。
脱炭素の「裏テーマ」であった、
森林組合の経営再生も進行中。
木質バイオマスはすでに稼働中?
数多くの力を借り、補助金も活用したことで、令和2年には西当別小中学校、令和4年にとうべつ学園に木質チップボイラーを導入することができました。現在は森林組合の経営再生も目指し、役場からも職員を派遣し立て直しを図っているところです。
想定外のトラブルもなく?
うれしい誤算はありました。当初は木質チップの原料として間伐材や、森に残された丸太の残骸、払われた枝などの林地残材という資源を考えていました。ただ、それだけでは木の調達が難しいという課題もあり…。そんな時、木質チップの製造を担ってくれる運送会社が、北海道開発局から河川支障木(治水・防災上、支障のある木)も活用できるのではないかという話を聞き、原料調達の新たなルートも確保できました。
写真上にストックされているのが河川支障木。写真下の丸太が間伐材。これら資源を木質チップとして加工。
今後のゼロカーボンに向けた取り組みは?
わが町の太美地区には帯水層があることから、地中熱を利用したヒートポンプの導入も進めています。
地中熱のポテンシャルもあったのですね!
とはいえ、地中熱のヒートポンプは掘削コストが莫大で道内の事例は多くありません。ここでも道総研の力を借り、従来とは異なる方式のヒートポンプの導入方法を模索しているところです。それらの情報を共有し、多くの地域で使ってもらえたらうれしいです。
素晴らしい取り組みですね。最後にメッセージを。
地域のエネルギーは地域の財産。夢物語かもしれませんが、再生可能エネルギーの広がりが本町に暮らす家庭の光熱費を削減できる日がくるかもしれません。今後、より多くの人に脱炭素の考えを根づかせるために、「温室効果ガスの削減=生活費の助けになる」の経済効果を示していきたいですね。
当別町は地中熱のポテンシャルもあり、ロイズタウン駅ではそれを活用したロードヒーティングを導入。