脱炭素の取り組み
一歩踏み出した自治体へのインタビュー 白糠町
広大な工業団地を
有していたことが脱炭素へ
の一歩につながりました。
H&A環境計画株式会社(脱炭素推進アドバイザー)
金谷 晃さん
銀行系シンクタンクを経て、H&A環境計画株式会社を設立。自治体および民間事業者向けの国の支援事業をプロデュースし、脱炭素による地域活性化に貢献。
グリーン専門人材として
白糠町の脱炭素を支援。
白糠町とはどのような関わりですか?
私は内閣府が取り組む「地方創生人材支援制度」で、自治体の脱炭素を支援する専門人材(グリーン専門人材)として、白糠町に派遣されました。派遣は令和5年度ですが、前職のシンクタンク時代にも釧路白糠工業団地への企業誘致をお手伝いさせていただいていて、白糠町とのお付き合いは20年近くになります。
地方創生人材支援制度とは?
地方創生を人材面から支援するため、自治体へ専門人材を派遣する仕組みです。その中でグリーン専門人材は、専門的な知見で脱炭素と地域課題の同時解決に向けた取り組みを支援する役割を担っています。
炭鉱業から脱炭素へ。
工業団地を舞台に産業の転換が進む。
釧路白糠工業団地について教えてください。
白糠町はかつて炭鉱業で栄えましたが、炭鉱が閉山した後、新たな産業集積を目指して企業誘致を進めました。そのために造成されたのが釧路白糠工業団地です。広さは340haにもなり、隣接する釧路市との境にあります。
この工業団地が脱炭素を牽引したとか?
そのとおりです。企業誘致では白糠町のポテンシャルとして年間2,000時間を超える長い日照時間や豊富な森林資源があることをアピールし、そこに興味を持ってくれたのが再生可能エネルギー開発をグローバルに展開する(株)ユーラス エナジーホールディングスだったんです。同社は平成23年に「ユーラス白糠ソーラーパーク」を建設し、平成26年2月より運転開始、その総出力は30メガワットで一般家庭の約9,600世帯分の電力量を発電しています。
平成26年から運転を開始しているユーラス白糠ソーラーパーク
白糠町に進出した再生可能エネルギー企業は他にも?
平成30年からは業務スーパーでおなじみの(株)神戸物産が木質バイオマス発電所を稼働させています。出力は約6.2メガワット。町内の未利用の間伐材などを活用しています。太陽光とバイオマスをあわせると、発電される電力は町内の電力消費量の約1.4倍に達します。
間伐材を主な燃料とする神戸物産のバイオマス発電所
企業誘致できる土地があることは脱炭素においても強み?
そうですね。白糠町では令和4年に専門学校「学校法人ジオパワー学園」が開校したことが話題になりましたが、学園を設立した沼田氏(神戸物産の創業者)も白糠町を選んだ理由に「十分な用地を確保できたこと」をあげています。
ジオパワー学園とは?
地熱発電所の建設に不可欠な掘削技術者を育成する専門学校です。日本には豊富な地熱資源があるものの、技術者不足で利活用が進んでいません。同学園は、若い技術者を育成することで、白糠町はもちろん、道内外で地熱活用の動きを加速させることを目指しています。
工業団地に隣接する国内初の掘削技術者養成校「掘削技術専門学校」
再生可能エネルギー活用は
一次産業の振興にも直結。
ほかに白糠町で脱炭素が進んだ理由はありますか?
町長のリーダーシップも大きな要因だと思います。白糠町の基幹産業は農林漁業ですが、町長はその発展のためには「地域資源を活用したエネルギー供給が欠かせない」と、20年以上前から、再生可能エネルギーに注目したまちづくりに取り組んでいました。
先見の明があったのですね。
自ら先頭に立って取り組む姿勢に影響を受けた職員も少なくないと思います。指針となるビジョンを掲げたことに加え、人材育成という視点でも町長の功績は大きいと感じています。
脱炭素において、人材育成に苦労する自治体は多い?
これは構造的な問題とも言えますが、多くの自治体では数年ごとに人事異動があり、ひとつの仕事に、長期間、腰を据えて取り組むのが難しいのが現実です。せっかく学んだ知識も部署が変わると生かされず、新任者はまた一から学ばなければいけません。時間をかけて作った計画が、計画だけで終わってしまったりするのも、継続的に業務に取り組むことが難しいからです。
外部コンサルタントの知見やノウハウを、
自分たちのモノにする意識で。
金谷さんのような外部コンサルタントを活用する上でポイントになることは?
一口にコンサルタントと言っても千差万別ですし、その実態は玉石混交だと知っておくことは大切だと思います。悪質な例では、他の自治体向けに策定した計画を「◯◯町」の部分だけ書き換えて一部流用していたコンサルティング会社もありました。民間企業を活用する場合、入札形式だと金額面に目が行きがちです。“安かろう悪かろう”とは言いませんが、入札ではなくプロポーザル形式で、しっかりと提案内容を精査することは必要だと思います。
おすすめの活用法などは?
わからないこと、気になることは遠慮せずにどんどん質問するのが良いと思います。そして、コンサルタントの知見やノウハウを引き出して、自分たちのものにする。「丸投げ」ではなく、一緒に学ぶ姿勢が大切ですね。
ゲーム要素を取り入れるなど、
楽しみながらできる工夫を。
これから脱炭素に取り組む自治体職員向けのアドバイスはありますか?
脱炭素の取り組みは全ての部署に関わるものですが、それぞれの担当業務に追われ、後回しになりがち。そうならないためには、「なぜやるか」の理由をきちんと共有して、意識を高めることが大切です。役場庁舎などの自治体の保有施設で脱炭素に取り組む事務事業編の実施では、担当課ごとに削減量を競うなど、ゲーム感覚で行なうのもひとつ。楽しみながらやることが継続につながります。あと、計画策定の際は、地域の実情にしっかりと目を向けることが大切だと思います。
というと?
環境省が公表している「自治体排出量カルテ」などのツールを使うと、地域の二酸化炭素排出量を簡単に調べることができます。ただこれは、都道府県ごとの排出量を世帯数等の活動指標で按分した推計値です。このため、家庭部門であれば、世帯構成までは加味していません。高齢世帯が多いのか、子育て世帯が多いのか。どんな世帯が多いかで排出量も変わるため、単純な世帯数による按分推計値とは実態は異なります。
実情を把握するには?
住民へのアンケートやサンプリング調査などが有効です。統計データの数字だけで計画を策定するのではなく、現状をきちんと分析することで意義のある事業化に結びつけることができます。
では最後に、脱炭素に取り組む自治体にエールを
脱炭素の取り組みは、地域創生に結びつくものだと考えることが肝心です。実際、白糠町では太陽光発電で得た税収を財源として子育て支援を拡充し、近年、移住者も増えています。町の魅力アップに脱炭素が寄与する、そんな視点を意識してほしいと思います。