脱炭素の取り組み

一歩踏み出した自治体へのインタビュー 赤井川村

脱炭素を
難しく考えすぎないのが
一歩目につながりました。

赤井川村総務課長
髙松 重和さん

平成5年、赤井川村役場に就職。福祉、農業、総務の仕事を経て道の駅開業のプロジェクトを経験。令和元年より現職。

赤井川村総務課長 高松さん

まちの地勢に目を向け、
アンテナを張る姿勢も大切。

赤井川村が脱炭素を意識し始めたきっかけは?

自発的に意識した…というよりも地勢的な要因が大きかったと思います。東日本大震災以降、大手エネルギー事業者が再エネ資源を開発するために村内で地熱発電のポテンシャル調査を始めました。井戸の掘削にあたって開発調査の理解促進協議会が立ち上がり、商工会や観光協会の若手もエネルギー企業との勉強会を開くなど、再生可能エネルギーに対する機運が少しずつ盛り上がってきたんですね。

なるほど、そもそも環境に恵まれていたわけですね。

その通りです。早い段階から外部のエネルギー企業とつながりが持てたのも幸運。ただ、地域を見渡してみると落差の大きな川があったり、山林があったり、地勢的にプラスに働く環境は必ずあると思います。再生可能エネルギー事業者に関しても、さまざまなところでポテンシャル調査に乗り出しているため、良い出会いをつかむためにアンテナを張っておくのは大切です。

まちづくりの中核に
再生可能エネルギーの活用プロジェクトを。

脱炭素の取り組みが具体化された過程は?

我が村も他の地方自治体と同様に人口減少が進んでいます。平成27年に村ならではの特性を生かしたまちづくりを進めることを決めました。その中核を担うのが、令和2年に再生可能エネルギーの活用プロジェクトとして掲げた「赤井川エネルギービジョン」です。

具体的には?

地域資源をフル活用した再生可能エネルギーの導入プロジェクトを7つ打ち出しています。例えば村内のカルデラ温泉の排湯熱を利用し、隣接する体育館も含めたエネルギー利活用の検討を進めたり、小水力発電を事業化できないか調査したり、ゼロカーボンのまちづくりに向けた小さな一歩目に踏み出したところです。

では、これから着手していくことが多い?

はい、現在は調査が多いのですが、森の間伐はすでにスタートを切りました。これまで40年近く村有林の手入れができずにいたため、二酸化炭素吸収源開発として村内の林業事業者とともに森の成長を促しています。これまで、林業事業者は村外の現場に出かけることが大半だったため、移動に使われる化石燃料もカットできるはずです。

森の間伐の様子

キーワードはゼロカーボン。
でも、すべきことはまちづくり。

髙松さんは長く脱炭素の担当を?

いえいえ、令和元年に担当になりました。当時の私は「脱炭素=再エネで電気を作れば良いのだろう」くらいの知識しか持ち合わせていません(笑)。

知識の吸収はどのように?

知識…というより視野が広がったのだと思います。それも北海道大学の石井一英教授のおかげです。令和2年のエネルギービジョン策定委員会をきっかけに、地域住民と民間事業者で意見交換を行った際のこと。石井教授は、「エネルギーといえば電気」という凝り固まった考えを「水や熱など身近にあるものも活用できる」と正してくれましたし、対話を通じて小さくてもさまざまな取り組みを始めてみるようアドバイスしてくれました。

対話を通じた小さな取り組み?

例えば、住民との対話を通じて人が集まる場所が少ないという意見が出たとします。地域に魅力あるコミュニティを作ることができれば人が集まり、その分だけ家庭の冷暖房を使わなくて済みますよね。キーワードはゼロカーボンですが、やるべきことは地域課題の解決だと教わり目からウロコが落ちました。

まちづくりと脱炭素を結びつけるということですね。

はい。例えば、赤井川村の素晴らしいカルデラ盆地を自転車で走ってもらうのも環境と観光を結びつけた脱炭素の取り組みにつながる可能性があります。エネルギー転換だけではない効果に目を向けることで、脱炭素が取っつきやすいものに感じるようになりました。

赤井川村総務課長のインタビュー

住民や民間企業、学校との
「混ざり合い」を作るきっかけに。

視野の広がりがもたらしたことって?

我が村では令和4年に民間のバス業者が撤退し、自治体で「むらバス」を運行することになりました。それまではJRとの接続が良くなかったので、村外の高校に通う生徒を各家庭の保護者がクルマで最寄り駅まで送っていたんです。「むらバス」を走らせるにあたり、今度はバス・JR両方の到着時刻に合わせて「むらバス」を走らせることで、高校生がいる家庭では通学にバスを利用でき、それぞれのガソリン消費も減り、温室効果ガス排出量も低下しています。これも小さな脱炭素と位置付づけています。

赤井川村の「むらバス」

そう考えると、脱炭素はいろんなことに結びつきそう。

ええ、そうですね。地域の観光や交通、コミュニティなど、「暮らし」の小さな不便に目を向けると、脱炭素に紐づく切り口が見えてくるはず。とはいえ、私たちのような自治体職員だけでは脱炭素を成功に導くのは不可能です。事実、我が村でも住民や民間企業、学校などと手を携え、対話を重ねたり、温室効果ガスのリアル排出量を調査したり、多様な人と混ざり合いながら取り組みを進めています。むしろ、私ができることは、「マイボトルを持つのも、バスに乗るのもゼロカーボン。敷居は高くないでしょ」と、皆が混ざり合うきっかけを生み出すことだけですね(笑)。

小中高生にゼロカーボンを学んでもらう取り組み

小中高生のゼロカーボンを学んでもらう取り組みにも積極的。