脱炭素の取り組み
一歩踏み出した自治体へのインタビュー 中富良野町
エネルギーコストを
抑える視点がこれからの
まちづくりに不可欠です。
中富良野町 町長
小松田 清さん
平成元年、中富良野町役場へ入庁。産業建設課長、総務課長などを歴任し、令和元年、中富良野町長に就任。現在2期目。
脱炭素を目指す取り組みで、
町のエネルギーコストを抑える。
令和4年6月にゼロカーボンシティ宣言をしていますね。
本町では、町長と議会が一緒に宣言をしました。温暖化対策の実行計画は平成23年に作られたものがありましたが、長く更新されておらず、令和5年に第2次地球温暖化対策実行計画(事務事業編)として更新しました。
まちづくりには脱炭素が不可欠と考えているとか?
そのとおりです。私は2019年に町長に就任しましたが、これからの時代、高齢化や人口減少による税収減は避けられないと見ています。とは言え、教育や福祉、生活の基盤になるような支出を簡単に削減することはできません。だからこそ、街全体でエネルギーにかかるコストを抑えられれば、そのぶんを必要な施策にまわすことができます。脱炭素はこれからのまちづくりに欠かせないキーワードだと捉えています。
再生可能エネルギー資源に恵まれていなくても、
脱炭素への取り組みは可能。
中富良野町の再生可能エネルギーポテンシャルはどの程度?
道内の自治体では、残念ながら低いほうです。バイオマス発電ができるほどの森林はありませんし、水力発電ができるダムもない。町の施設に太陽光パネルを設置することは可能ですが、地熱や風力は難しいでしょう。ですから脱炭素に向けた本町の第一歩は、そうした現状を自覚するところからのスタートだったんです。
観光資源は豊富だが、森林面積は4,184haと少ない。
ということは、まずは省エネルギー?
そうですね。現在、町内の小中学校を統合して小中一貫義務教育学校の建設を進めており、基本計画の段階からエネルギー消費量を50%以上削減するZEB Ready認証を盛り込みました。既に認証は取得しており、令和7年度に完成予定。従来より、大幅に光熱費が削減できると見込んでいます。
ZEB Ready認証を取得した義務教育学校(完成イメージ)。
エネルギーの効率的な利用も重要ですね。
本町は役場やコミュニティセンター、学校など町の関連施設が中心部にコンパクトにまとまっているという強みがあります。送電距離が長くなるほど電力の(もしくはエネルギーの)ロスも大きくなるという特性がありますが、本町は、各施設で作った太陽光電力なども無駄なく融通できます。
初期投資を回収できるかどうか、
ランニングコストとのバランスも重要。
脱炭素に取り組んでみて感じたことは?
一歩進むごとに新しい課題に直面すると感じました。最初は人員の確保。基本的に町の職員は既存の業務で忙しいため、新しいことに取り組む余裕がないのが実情。令和4年にゼロカーボン推進係を新設し、他の業務と兼務だったため、担当者の負担が大きくなってしまいました。
ほかにも課題が?
やろうと思っていたことが、想像以上に制約が多かったりもしました。例えば太陽光発電についても、町の施設にパネルを載せて、電力消費を補えれば…と安易に考えていましたが、実際は様々な制約があり、そう単純な話ではありません。こうしたことも、動き出してみて初めて学びました。
脱炭素に向けた取り組みの注意点などは?
ランニングコストを抑えることは大切ですが、イニシャルコストとのバランスはしっかり検討する必要があると思います。初期投資が大きすぎて、回収できないようでは本末転倒です。最近、本町が、財源の確保の手法として注目しているのが脱炭素化推進事業債。施設のLED化などはこうした制度を活用して、スピーディーに進めていく考えです。
外部の知見を積極活用することで、
新しい可能性が開けるはず。
外部人材の活用も進めているとか?
地方創生人材支援制度を活用してNTT東日本からグリーン人材の派遣を受けています。NTT東日本においては、全国の自治体の温暖化対策事業をサポートした実績があり、ノウハウが豊富。こちらから「こんなことがしたい」と相談すると、どこそこの自治体でこのような取り組みをした事例があって…と、即座にアドバイスをいただけます。知見のない私達にとって非常に頼りになる存在です。
自治体単独でできることには限界がある?
民間企業や国や道、北海道環境財団などの支援を得ることは大切だと感じます。本町の担当者が北海道環境財団や環境省の地方環境事務所に相談した際は、親身になって話を聞いてくれて、どうすれば官民連携ができるかなどのアドバイスもしてくれたと聞いています。地域脱炭素マッチング会なども外部のネットワークを作る良い機会だと思います。
ユニークな取り組みもスタートしたそうですね?
「町民にわかりやすく脱炭素のメリットを伝えるには」と、「ゼロカーボンフェア」と題したイベントを開催することにしたんです。太陽光発電設備の設置や省エネルギーリフォームの相談を受け付けたり、電動バイクなどの体験コーナーを用意したり、ゼロカーボンを身近に感じてもらう機会としています。
脱炭素への理解も広がりそうです。
地域への啓発には時間がかかるので、こうした活動は継続的に進めていくべきだと考えています。その一方、結果が出やすいLED化などはスピーディーに行う。そのメリハリは意識しています。
初めて企画された町民向けイベント「なかふらのゼロカーボンフェア」と「なかふらのごみZEROウォーク」。
町長が思い描く未来は?
将来的には地域でうまくエネルギー循環ができればと考えています。中富良野だけで難しければ近隣の市町村とも連携し、再生可能エネルギーを域内で相互利用する。また並行して地域のエネルギーを利用してくれる企業誘致にも取り組み、雇用を増やして、関係人口を増やす。脱炭素の取り組みが、そうしたまちづくりにつながることを夢見ています。