脱炭素の取り組み
「最初の一歩」のアドバイス
まちづくりを楽しむこと、
それが脱炭素に
つながります。
北海道経済部 ゼロカーボン推進監
今井 太志さん
1995年自治省入省。2000年ミシガン大学留学を経て総務省入省。2003年より北海道庁入職。経済部観光局参事、総合政策部知事室次長、地域創生局長などを歴任、2021年より現職。
脱炭素の取り組み、
まだスタートライン。
ゼロカーボン推進監という役割は?
現在、北海道では、北海道内の温室効果ガス排出量を2030年度までに48%削減し、2050年までに実質ゼロと持続可能で元気な北海道づくりを進める「ゼロカーボン北海道」の実現を目指しています。私は、専門家から貴重な提案や意見などを頂きながら、職員と共に道内の自治体への情報提供やアドバイス、ゼロカーボン北海道推進のための多彩な事業策定などに取り組んでいます。
脱炭素の取り組み、進んでいる自治体とそうでない自治体があるようです。
環境省は2022年4月から、定期的に「脱炭素先行地域」の募集をしています。選ばれた地域はさまざまなサポートを受けながら、地域の活性化と脱炭素の取り組みを進行させています。このような経緯に加え、各自治体の事情もあり、道内でも脱炭素の取り組みが具体的に進んでいる市町村と、そうではない市町村が混在する状況になっています。
ただ遅れているからといって、施策を焦る必要はありません。脱炭素は、ここ十数年の間に本格化した取り組み。この先も目標達成への長い道のりが控えています。先行地域もそうでない自治体も、実はスタートラインに立ったばかりなのです。
経済的にも
トクだから脱炭素、の時代です。
「脱炭素」=「ガマンする」「無理をする」と感じる人もいるとか。
脱炭素の取り組みというと「エネルギーを使わずガマンすること」「経済的な発展から逆行するイメージ」中には「将来の環境を守るために、今の人が仕方なく取り組むこと」と思う人もいるかもしれません。しかし世界に目を向けると、今や脱炭素とは「メリットを生み出す循環型の経済施策」というのが常識。ガマンじゃなくて、「もったいないから脱炭素」の時代なんです。
具体的な事例をお聞かせください。
例えば、酪農のまち上士幌町が再生可能エネルギーの資源としたのは、それまでやっかいものだった家畜のふん尿。町内で大量に排出されるふん尿を発酵させてバイオガスを生成し、そのガスを燃焼させ、発電機によって電気を生み出すことに成功しているんです。
この地元産の電気は一度、電力市場に売電されますが、その後町内の観光地域商社が買い戻し、電気の小売事業者を通じて畜産農家をはじめ、公共施設や一般家庭などに供給されています。
その分、化石燃料由来による電力に頼らなくてよくなる?
はい。この取り組みは町外へのコストの流出を防ぎ、売電で自治体に収益も生み出すという理にかなったシステム。今後施設が拡大し順調な稼働が続けば、さらなる利益が見込めるかもしれません。
さらにこの取り組みはガス製造の過程で出た「消化液」を、牛の寝ワラや肥料に利用したりと非常に効率的。電気の地産地消だけでなく、家畜の飼育環境下における、副産物の循環まで完成しているわけです。
すばらしい循環ですね。
間伐材、そばガラやもみがら、さらにごみなど、それまで「捨てていた資源」に目をつけ発電に取り組み始めたり、温泉や地中熱に注目し地域の施設などの熱源にするなど、エネルギーの確保を目指している自治体もあります。こういった「好事例」がほかの町に広がっていく…という「好循環」に繋がることを期待しています。
地方における電力供給の将来イメージのひとつ、自営線によるマイクログリッド。再生可能エネルギーを利用して自営線を敷設し独自の電力系統網をつくる取り組み。
取り組みをすすめる鍵は
「楽しむ」こと。
自治体が脱炭素の取り組みを進める上で大切なことは何だとお考えでしょう?
先の上士幌町の取り組みで私が感動したのは、町長をはじめ役場の担当者、観光協会の方々、町民の皆さんが心底楽しそうに取り組んでいるということです。 いろいろ考えるとついつい頭痛が…なんてなりそうに思うのですが、これが正反対。皆さん、この取り組みを楽しもうとしてる。ワクワクしてるんです。私はこれがとても重要だと思っています。
なるほど。楽しむことが大切なんですね。
つまらないイベントには人は集まらない、楽しくないことは進まない… これ、どの自治体でも常識ですよね。仕事だから、役割だからではなく、「誰もやったことがないからおもしろい」「もったいないをなくすのが嬉しい」くらいの気持ちで、自治体の担当者も住民も楽しみながら取り組むことが大切なんです。 回り道したっていいじゃないですか。義務にせず、周りを巻き込み、楽しみをつくり出しながら取り組んでいくことをお勧めします。
まちの課題を突きつめると
「脱炭素」につながる。
脱炭素は特別な試みではないとお考えだそう。
脱炭素の取り組みは、自治体の職員の皆さんが毎日取り組んでいる「まちづくり」そのもの。脱炭素が地方創生といわれている理由もそこにあります。
具体的には?
例えば、若者の流出を抑えるために雇用の場や雇用機会をつくること、財政難から脱するためのムダな経費の削減すること、台風や大雨被害など自然災害からまちを守ること、耕作放棄地や空き家の活用、子育ての支援や郷土愛を育てて行くこと…
こういったまちづくり課題を突き詰めていくと、(雇用の創出のために)再生可能エネルギーや緑化で雇用を生み出す、(経費のムダや流出を防ぐために)化石燃料の購入を減らす、(自然災害をなくしていくために)温室効果ガス由来の自然災害を抑える、(空き家や耕作放棄地を無くすために)まちの土地や資源を有効活用する、(郷土愛を育てるために)子どもたちに誇れるまちをつくりあげる…
このように、まちづくりが目指すべき方向は、脱炭素が目指す社会と一致するんです。あらゆるまちづくりの道は、脱炭素に通じるわけですね。
なるほど、どれも身近な課題です。
そう、脱炭素は特別な取り組みではないんです。「真正面から脱炭素に挑む」だとプレッシャーも大きいですが、まちづくりの施策に取り組む中で、脱炭素を意識していくのなら、肩に力が入らないし継続もできるはず。日々の業務や取り組みの中で、「あ、これも脱炭素だ…」そんな気づきや発見を重ねていくことも大切だと思っています。