脱炭素の取り組み

「最初の一歩」のアドバイス

伝え方や募り方を
考えるのも脱炭素への
大切な一歩です。

北海道大学 大学院工学研究院 循環共生システム研究室
ロバスト農林水産工学国際連携研究教育拠点代表

石井 一英教授

札幌生まれ。北海道大学工学部衛生工学卒。2018年より現職。北海道、札幌市をはじめ多くの道内自治体の環境・廃棄物関連計画の策定を支援。

北海道大学 石井教授

「捨てる」→「片付ける」で変わる、
考え方や行動。

脱炭素の取り組みを進める上で最も大切なのは、「視点や考え方を変えること」と伺いました。

例えば、私の専門である廃棄物分野を例として考えてみましょう。一般的にごみは「捨てる」というのが社会通念です。持っていても仕方ないもの、廃棄されるものという扱いですね。人は、そういった「不要物」に対し関心を抱かないため、例えば細かく分別しているごみ箱があったとしても、時に不用意に、時に分別をよく考えずに「捨てたり」するものです。

ではごみを「⽚付ける」と表現するとどうでしょう。それまで「不要物」としてとらえていたごみに、将来、誰かがどこかで利用できる資源という側⾯や再使⽤の可能性が⽣まれてきたように感じませんか。自分の家でも、公共の空間でも、使った物(資源)は、次の人が使いやすいように片付けますよね。「捨てる」から「⽚付ける」へ、表現や視点をほんの少し変えるだけでも、⼈の意識や⾏動は⼤きく変わってきます。

北海道大学 石井教授のインタビュー

こういった考え方を自治体の脱炭素の取り組みにも取り入れるべきということですね。

脱炭素の取り組みは、地域の環境や資源、特性に密接に関わるもの。全国一律の画一的なシステムや国(中央集権)からのトップダウンという既成の構造下では、スムーズに進まない場面も生まれてくるでしょう。

自治体が脱炭素社会を目指していくためには、地域や地方という「ひとくくり」ではなく「自分のまち」という認識、多様なしくみやシステムの導入、市民参加によるボトムアップや近隣のコミュニティとの協働、異分野や他の部局との連携、世代や性別を超えた意見交流など、これまでの常識にとらわれない言動や、ユニークなアイデアをもとにした活動が大切になると思っています。

どうしたら伝わるか、
参加してくれるか。

自治体職員や一般市民と、脱炭素について直接お話しする機会も多いとか。

そうですね。ただ多くの市町村で頭を悩ませている「地域脱炭素計画策定」などの会議で、カーボンニュートラルのためにできることは何でしょう…と問うと、行政担当者も、一般市民の方々も、黙り込んでしまうんです。テーマが壮大すぎて、どこから話を始めていいか途方に暮れてしまっているのかもしれません。

脱炭素の取り組みの具体的な内容を詰めていくことも必要ですが、どう伝えたら多くの人の賛同を得られるか、どのような取り組みにすれば市民の皆さんが参加してくれるか、を考えることの方が、今は大切だと感じています。

冊子ではそのあたりをとてもわかりやすく解説頂きました。例えば、伝え方はshouldよりshall…

次代を生きていく子どもたちのために、大切な地球環境を継いでいくために…という思いから、メンバーや住民に意見や思いを伝える際、つい語調が「〜すべき」「〜しなければならない」になってる人を見かけることがあります。気持ちはよく分かりますが、強引な態度、上から目線では、理解していただく前に反感を買ってしまいますよね。

大切なのは一人でも多くの市民に、自発的に賛同、参加してもらうこと。当然、伝え方も「should〜すべき」ではなく「shall〜してみませんか」が基本となるわけです。

若者も、よそものも、
仲間に招き入れてみて。

北海道大学 石井教授のインタビュー

自治体の枠を飛び越えて様々な方の参加を募っては、というお話も。

全ての職員、全ての住民が納得する脱炭素の取り組みを考えるのは、至難の業。そこにこだわりすぎると結果的によくある施策になり、盛り上がりに欠けたり、参加や実際の行動が半減したり…。公平性は大切ですが、時には少数派のメンバーのアイデアや協働で「新しいこと」「ユニークなこと」に取り組んでみては、と話してみました。

具体的なアイデアは?

例えば、職員主導ではなく学生たち主導で省エネルギーのアイデアを募ったり、リサイクル市やキッズ向けの体験学習の企画を進めたり。町外の若い人を巻き込み、「このまちの魅力発見ツアー」「まちの課題見つけてツアー」を開催してみるのもおもしろいかも。自分たちでは気づかなかったまちの資源や課題と脱炭素を結びつける、なんて楽しそうだと思いませんか。

確かに!視野がグンと広がります。

脱炭素の実現は、例えるなら巨大な岩を動かす…みたいなこと。一人ではとても太刀打ちできません。そこに必要になるのは、大勢の賛同や協力をさらに倍増させてくれるような人。「協働したくなる魅力」「ユニークな経験や発想」「多彩なネットワーク」などのターボエンジンを備えた人なら、なおいいでしょう。

とにかく立ち止まらず、始めることです。巨大な岩もひとたび転がり始めると、勢いが増していくように、動き始めた脱炭素の取り組みは、楽しさや手応えを感じるものであれば、より大きな活動へと進展していくはずです。 ですから、脱炭素の取り組みのメンバーに垣根は禁物。子どもたちや学生、移住者など町内の既存の人々を誘ったり、他の町の若者や外部のクリエーターなども多様な価値観を持つ人たちを仲間に囲い入れながら、まちのイベントの企画を考えるように、みんなで楽しみながら進めていけばいいんです。

取り組みのゴールは、
将来のまちづくりです。

将来のまちづくり画像

脱炭素は目標や目的ではなく通過点、というお話にも共感を覚えました。

脱炭素社会とは、住民・企業・行政・教育機関、さらに自然や産業などの「まちの資源」を活用しながら、担い手不足・地域交通・新規産業などの「まちの課題」をひとつひとつ解決していくことで達成されていくもの。いうなれば脱炭素とは、将来の「まちづくり」というゴールのプロセスなわけです。

なるほど!

もっと住みやすく、より豊かに、さらに活気づくために… まちづくりに終わりがないように、脱炭素も次の世代へと脈々と引き継がれていく取り組み。だからこそ楽しむこと、継続させていくことが大切なのです。

Message!

脱炭素と食の未来を考える、北大ロバスト拠点。

今後環境の変化、世界人口の増加、資源の枯渇が発生しても、食料の生産や分配の継続は不可欠です。脱炭素化を進める一方、環境や気候など外的な変化の影響を受けない強靱さ(ロバスト性)も備えた社会をつくるために、北海道大学を拠点に、農業・水産業・林業・工学などさまざまな分野や見地からの研究や活動に取り組んでいます。

北海道大学 ロバスト農林水産工学 国際連携研究教育拠点
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